AI店長が24時間接客する時代へ。楽天市場が公開したAI戦略と、サイト運営者が今から準備できること
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2026年8月5日から7日まで、横浜のパシフィコ横浜で「Rakuten AI Optimism」という大きなイベントが開かれました。楽天グループが年に一度開催しているビジネスイベントで、今年はタイトルに「AI」が入っています。その会場で、多くの来場者の足を止めたものがありました。「AI店長」です。
名前を聞いただけでは、よくあるチャットボットのことかと思われるかもしれません。ですが今回発表された内容は、これまでの自動応答とはかなり性質が違います。この記事では、何が発表されたのかを整理したうえで、「これは自分に関係のある話なのか」という視点でお伝えしていきます。専門用語はできるだけ使いませんので、AIに詳しくない方も安心して読み進めてください。
そもそも「AI店長」とは何なのか
楽天が公開した「AI店長」は、楽天市場に出店している各店舗の店長やスタッフが持っている商品知識や接客スタイルをAIに学習させ、そのAIが24時間365日、お客さまの相談に乗るという構想です。会場での展示名称は「マーチャントAI」とされていました。
できることとして挙げられていたのは、商品の相談、商品同士の比較、レビューの紹介、おすすめ商品の提案、購入の手助け、そして実際の購入までです。つまり「質問に答える」だけでなく、「選ぶのを手伝って、買うところまで連れていく」役割まで担うという設計になっています。
楽天が展示で特に強調していたのは、次の3点でした。1つめが「より専門性の高いAIによる接客」、2つめが「各店舗の個性が光る多様な接客体験」、3つめが「出店店舗にとってのメリット」です。この3つの並び方に、今回の発表の本質が表れているように思います。
普通のチャットボットとの決定的な違い
これまで多くのサイトに置かれてきた自動応答は、「よくある質問」をあらかじめ登録しておき、それに近い質問が来たら該当する答えを返す仕組みでした。便利ではありますが、登録していない質問には答えられません。「そのご質問にはお答えできません。お問い合わせフォームからご連絡ください」という返答に、がっかりした経験のある方も多いのではないでしょうか。
今回の「AI店長」が違うのは、店舗独自の商品知識やこだわりをAIに反映させるという点です。楽天が例として挙げていたのは、ワインなら料理との相性、アウトドア用品なら利用シーンに応じた選び方といったものでした。つまり「専門店の店員さんが持っている、マニュアルには書けない知識」をAIに持たせようとしているわけです。
さらに、店舗ごとの世界観や話し方も反映できるとされています。丁寧で落ち着いた接客のお店、フレンドリーで距離が近いお店、その違いをAIの応対にも出せる。同じ楽天市場の中で、お店ごとに接客の色が違う状態を保ったままAI化する、という考え方です。
なお、今回の展示ではアバター(人の姿をしたキャラクター)は登場せず、テキストチャット形式のデモが紹介されたとのことです。構想段階であることは押さえておく必要があります。
もう一つの目玉「バーチャル試着」
「楽天市場」ブースのもう一つの目玉が、生成AIを使ったバーチャル試着機能でした。利用者が自分の全身写真をアップロードすると、AIがおすすめのコーディネートを提案し、さらにその服を実際に着ているかのような画像を生成してくれるというものです。
商品を探すところから比較して検討するところまでを対話型のAIが支え、試着イメージを確認したあとは商品ページに移動して購入に進む、という流れが想定されています。こちらも現時点では構想段階で、提供時期は未定とされています。
この機能が面白いのは、ネット通販の最大の弱点に正面から手を入れている点です。「サイズは合うだろうか」「自分に似合うだろうか」という不安は、実店舗なら試着室で数分で解決します。その数分を、写真1枚で置き換えようとしているわけです。
Before → After:問い合わせ対応はこう変わるかもしれません
ここで少し、実務の風景を想像してみます。
これまで(Before)。夜23時に「この商品、贈り物にしたいのですが熨斗は付けられますか」という問い合わせが届きます。担当者は翌朝出社してからそれに気づき、返信します。お客さまはその間に別のお店で買ってしまっているかもしれません。問い合わせは1日に何十件も届き、その多くは似た内容です。担当者は同じような文章を1日中書き続けることになります。
これから(After)。夜23時の問い合わせに、店舗の知識を学習したAIがその場で答えます。熨斗の対応可否だけでなく、「贈り物であればこちらの組み合わせも人気です」という提案まで添えられるかもしれません。担当者が朝出社して向き合うのは、AIが答えきれなかった例外的な相談だけになります。
この違いは、単に「楽になる」という話ではありません。空いた時間で何をするかという話です。商品ページを1本作り直す、新商品の説明文を練る、レビューにきちんと返信する。これまで「時間がなくて手が回らなかったこと」に回せる時間が生まれる、というのが本当の意味だと考えています。
店舗管理システムにもAIが入ります
「AI店長」やバーチャル試着はまだ構想段階ですが、すでに動き始めているものもあります。出店店舗向けの管理システム「RMS」に組み込まれる「Rakuten AI for RMS」です。
2026年4月から提供されているAIデータ分析機能では、自店舗や商品のデータを会話形式で分析できます。同じジャンルの他店舗と比較する「競合分析」と、知りたいことを自由に文章で入力する「自由形式分析」の2つが紹介されました。売上のデータ、サイトへの流入のデータ、お客さまの属性のデータなどをもとに、自分の店の強みや課題を教えてくれるというものです。分析結果に対してさらに質問を重ねていくこともできるとされています。
そしてもう一つ、2026年9月から提供予定とされているのが、バナー画像の生成機能です。商品管理番号を入力すると、商品名・商品画像・キャッチコピーをもとに自動でバナー画像をつくってくれます。正方形(1対1)や横長(4対1)など14種類の比率から選べ、キャッチコピーも商品に合わせて自動生成されるとのことです。
バナー1枚をつくるのに、これまでどれだけ手間がかかっていたかを思い出してみてください。サイズを調べ、素材を探し、文字を載せ、デザインを整える。慣れた人でも30分、慣れていなければ半日かかることもあります。それが商品番号の入力から始まるようになる、という話です。
数字で見ると、どういう連鎖が起きうるか
ここは仮定の話としてお読みください。仮にバナー1枚の制作が30分から5分になったとします。週に10枚つくっていたお店なら、週に4時間近くが空くことになります。その4時間を商品ページの改善や新しい特集ページの制作に回せたとしたら、サイトの更新頻度は上がるかもしれません。
更新頻度が上がれば、検索エンジンやAIに拾われる情報の量も増える可能性があります。情報が増えれば、これまで届いていなかった検索キーワードから人が訪れるようになるかもしれません。訪れる人が増え、しかもその人が探していたものにきちんと答えられるページがあれば、購入につながる確率も変わってくるかもしれません。
もちろん、これは自動的に起きる連鎖ではありません。空いた時間を何に使うかを決めるのは人間ですし、更新すれば必ず流入が増えるという保証もありません。ただ「時間が空く」ということは「打てる手が増える」ということであり、そこには確かに意味があります。
AI検索の時代に、この発表が持つ意味
ここが今回、最もお伝えしたい部分です。
いま検索の世界では、大きな変化が起きています。GoogleにしてもChatGPTにしても、「検索結果のリンクを一覧で見せる」のではなく「AIが答えを直接まとめて返す」形が主流になってきました。すると、これまでのように「検索結果の上位に入る」ことだけを目指していても、人がサイトまで来てくれない場面が増えていきます。
そこで重要になるのが、「AIに正しく理解され、AIから推薦される」状態をつくることです。当社が力を入れているAI検索対策も、まさにこの領域です。
今回の楽天の発表は、この流れの延長線上にあります。「AI店長」に店舗の知識を学習させるということは、逆に言えば、学習させる知識が言葉になっていない店舗はAIに何も教えられないということです。ワインと料理の相性を語れる店長がいても、その知識がどこにも書かれていなければ、AIはそれを覚えられません。
つまり、AI時代に強いサイトの条件は、意外にも古典的なところに戻ってきます。自分たちが何を知っていて、何にこだわっているのかを、きちんと言葉にして残しているかどうか。これが、AIに学習させられるかどうかの分かれ目になります。商品ページの説明文、よくある質問、スタッフのコラム、レビューへの返信。そうした一つひとつが、AIに読ませる教材になっていくのです。
立場別に、この情報をどう受け取ればよいか
個人で発信をされている方へ。楽天の話は自分には関係ないと思われるかもしれませんが、「自分の知識をAIに学習させて、自分の代わりに話させる」という発想は、規模を問わず使えます。まずは自分が繰り返し聞かれる質問を10個書き出して、それぞれに自分の言葉で答えを書いてみてください。それがそのまま、AI時代の資産になります。
Webサイトを運営されている方へ。サイト内の情報が「人が読んで理解できる形」になっているかを見直す時期です。画像の中に文字で書かれている情報、PDFの中にしか存在しない情報は、AIには読み取りにくい場合があります。大事な情報はテキストとしてページ上に置いておく、という基本を確認しておきましょう。
ECサイトを運営されている方へ。今回発表された機能のうち、RMSのAI分析機能はすでに使えます。バナー生成は9月提供予定です。まずは自分が使える環境にあるものを触ってみて、「AIに任せられる作業」と「自分がやるべき作業」の線引きを自分の手で確かめてみてください。他社の事例を待つより、自分の店で試したほうが早く答えが出ます。
編集部の考察:本当に問われているのは「言葉にする力」です
今回の発表を追いながら考えていたのは、AIが接客するようになる世界で、いちばん価値が上がるのは何かということでした。
答えは、技術に強いことではないと思っています。自分の商品や仕事について、深く、具体的に語れることです。AIは、与えられた材料以上のことは話せません。「うちの商品はいいものです」としか書かれていない店舗のAIは、「いい商品です」としか言えません。「この生地は真夏の湿気でも肌に張り付かないので、汗をかきやすい方に選ばれています」と書かれている店舗のAIは、その言葉で接客できます。
これまで、こうした細かな知識は「店頭で口で伝えるもの」でした。だから書き残されないままでした。AIが接客を担う時代とは、その口伝えの知識を全部文字にして渡さなければならない時代です。手間はかかります。ですが一度渡してしまえば、それは24時間働き続けます。
楽天が「AI店長」の特長として最初に挙げたのが「より専門性の高いAIによる接客」だったことは、示唆的だと感じました。汎用的で当たり障りのない応対では、もう差がつかない。専門性こそが武器になる、という宣言に読めます。
まとめ:AIに渡す材料を、今から用意しはじめてください
楽天市場の「AI店長」もバーチャル試着も、現時点では構想段階です。明日から使えるものではありません。ですから「まだ先の話だ」と受け取ることもできます。
ですが、この記事でお伝えしたかったのは、発表された機能そのものよりも、その前提になっている条件のほうです。AIが接客する時代に強いのは、AIに渡す材料を持っているサイトです。その材料は、今日からでも書きためられます。むしろ、機能が出そろってから慌てて用意しても間に合いません。
お客さまから今週いちばん多く聞かれた質問は何でしたか。その答えを、あなた自身の言葉で書き残してください。それが、これからのサイト運営でいちばん確実な準備です。AIに選ばれるサイトは、AIに教えることを持っているサイトです。



