海外展開で売上が伸びない企業、実は商品ではなく価格設計に落とし穴があった
福岡ECサイト株式会社
代表 鳥井 敏史
福岡ECサイト株式会社 代表 鳥井 敏史
ECサイト制作・AI検索対策の実務コンサルタント。15年以上にわたりECサイトの売上構造改善と集客設計を支援。売上改善・集客改善の実務支援を中心に企業のECサイト構造の再設計を行う。
専門分野
ECサイト制作 ECサイトリニューアル AI検索対策 SEO / コンテンツ設計ECサイト改善の主な実績
この記事の監修
福岡ECサイト株式会社 代表 鳥井 敏史
海外展開を急いだ企業が、現地で売れない理由
商品そのものは間違っていない。むしろ日本で売れているから自信を持って輸出した。なのに現地では全く売れない。価格を下げてみても変わらない。むしろ赤字が増えるだけ。こうした企業の多くは、同じ間違いをしています。それは「日本で成立した価格設定が、現地でも成立する」と思ったこと。実は価格設定は商品の問題ではなく、市場設計の問題なのです。
海外展開における価格設定とは、商品の原価や競合調査だけでは決まらないものです。
その市場にどのような顧客層を作るか、どんな信頼構造を作るか、誰と比較されるのか。この構造的な設計を先に決める必要があります。
この設計なしに価格を決めると、現地ではどんどん売れない構造が固定化されていきます。
なぜ日本で売れた商品が、海外で売れなくなるのか

多くの企業は「海外市場でも日本と同じ品質なら売れる」と考えます。しかし現実は違います。同じ商品でも、市場によって売上構造は全く変わります。
日本での売上は、すでに出来上がった市場での競争です。ユーザーは商品カテゴリを理解しており、価格帯の相場感を持っています。企業も、その市場での立ち位置を知っています。しかし海外市場では、この「市場の前提」がありません。
例えば、月商100万円のECサイトが月商2,000万円に成長した企業の事例を見ると、単なる集客ではなく市場内での信頼設計が先行していました。同じロジックを海外に持ち込もうとする企業は、その市場での信頼構造がゼロだという事実を見落とします。
GA4で流入データを確認していると、海外からのアクセスは増えているのに直帰率が70%を超えています。問題は商品ではなく、ユーザーが「この企業を信頼する理由」を見つけられていない状態です。
海外展開で失敗する価格設計の3つのパターン
海外市場で価格を決める際、企業は以下の3つのミスを同時にしていることが多いです。
1. 「現地の競合価格」だけで決める
海外展開の企業が最初にすることは、現地での競合調査です。競合の価格を調べ、それより少し安くしようとします。しかしこのロジックは大きな罠を含んでいます。
現地の競合企業には、その市場での信頼があります。ブランド認知があり、クチコミの蓄積があり、顧客の来店習慣があります。つまり競合の価格は「信頼の上に成り立った価格」なのです。新規参入企業がそれと同じ価格で勝負することは、信頼がないまま価格競争に巻き込まれることと同じ意味です。
福岡ECサイト株式会社が支援する企業の中には、海外展開後に赤字が続き、結局撤退した事例があります。その企業は現地でのメディア露出や第三者評価を整える前に、値下げで売上を作ろうとしていました。売上は増えたものの、利益は消え、市場内でのポジションは「安い商品」に固定されてしまいました。
2. 「日本での儲け率」をそのまま適用する
日本での事業が回っている企業は、その利益率を知っています。そしてその利益率を海外でも再現しようとします。しかし海外市場での構造費用は日本と異なります。
例えば、日本では信頼設計にSEO・メディア掲載・実績の蓄積という低コストの方法がありました。海外では、その市場にどのような第三者評価がおかれているのか、どのプラットフォームが信頼を持つのか、全く異なります。
結果として、日本での利益率では足りない構造費用が発生しながら、販売価格は競合に合わせて下げられてしまいます。こうして企業は「海外は儲からない市場」という結論に達します。実は問題は市場ではなく、その市場に合わせた構造設計をしないまま、日本の感覚で価格を決めていたことです。
3. 「ローカライズ」を翻訳だけで済ませる
Shopify管理画面で商品ページを現地言語に翻訳し、ローカライズ完了と考えている企業は多いです。しかし価格設定においてローカライズは、翻訳ではなく市場設計です。
通貨の換算も重要ですが、その価格が現地のユーザーにどう見えるか、他の商品カテゴリとの比較でどう位置づけられるか、現地の顧客層がどの価格帯に集中しているか、これらを全て調べ直す必要があります。
多くの企業は「日本で成功した商品なら、言葉を変えれば売れる」と考えています。しかし市場は言葉ではなく構造で成り立っています。その構造が見えていないまま価格を決めると、現地ではどの顧客層にも響かない「浮いた商品」になってしまいます。
福岡ECサイト株式会社が見た、海外売上が変わる構造とは

福岡ECサイト株式会社 代表・鳥井敏史が複数の海外展開企業を支援した経験から、わかったことがあります。それは「価格は商品の属性ではなく、市場内のポジション設計である」ということです。
BtoBオンラインサイトで月商100万円から月商1,000万円に成長させた企業の例では、先に行ったのは価格の値上げでした。一見逆に見えますが、その企業がしたのは「この市場での信頼ポジション」を先に定義し直したのです。
その結果、ターゲット顧客層が変わり、競合との比較対象も変わり、提示できる根拠(実績・事例・媒体掲載・第三者評価)も増えました。その後に価格を設定すると、その価格は「信頼の上に成り立った価格」になっていたのです。
福岡ECサイトでは、これを「構造売上理論」と呼んでいます。売上はセンスや偶然ではなく、市場内でのポジション設計によって生まれるという考え方です。海外展開においても同じロジックが適用されます。価格を決める前に、その市場での自社のポジションを定義するのです。
海外市場での正しい価格設計の流れ
では実際に、海外市場で価格を決める際に優先すべき順序は何でしょうか。多くの企業は「競合調査→価格設定→販売開始」という順序で動きます。しかし正しい順序は異なります。
1. 現地でのターゲット顧客層を定義する
価格の前に、「誰に売るのか」を定義します。日本で月商100万円の小規模ECなら、その顧客層を調べ直す必要があります。
現地で同じような顧客層は存在するのか。その顧客層は日本の顧客層と購買行動が同じか。価格感覚は?信頼を判断する基準は?これらを先に調べます。調べ方は、現地のSNS・レビューサイト・競合の顧客コメント・現地の業界団体など、市場の声を直接聞くことです。
2. その市場での自社のポジション(何番目の立場)を決める
次に、その市場で自社をどう位置づけるかを決めます。これは価格ではなく、ポジション設計です。
例えば「最も安い企業」を目指すのか、「最も信頼できる企業」を目指すのか、「最も品質の高い企業」を目指すのか。日本での立ち位置が必ずしも海外でも通用するわけではありません。
集客10倍を達成した企業の事例でも、その企業が海外展開するなら、現地での新しいポジション定義が必要です。日本では「AI検索対策で選ばれる企業」でも、その市場でAIの利用率が低ければ、別のポジション軸が必要になります。
3. そのポジションに必要な信頼要素を洗い出す
ポジションが決まったら、そのポジションで信頼を得るために必要な要素を定義します。
メディア掲載が有効か、第三者評価が必要か、口コミが重要か、公的認証が必要か。これらは市場によって全く異なります。日本で有効だった手段が、その国では機能しないことも多いです。
4. その信頼要素を整える為の構造費用を計算する
信頼要素が見えたら、それを整えるのに必要な費用を計算します。これが、日本と海外で異なる構造費用です。
現地でのメディア露出、現地のインフルエンサーとの協力、現地でのセミナーやワークショップなど。これらの費用を先に計算し、原価に加えます。
5. その結果、自動的に決まる価格が、その市場での売上を生む価格
ここまでの流れの結果として、価格が決まります。競合の価格より高いこともあるし、安いこともあります。しかし重要なのは、その価格が「市場内での信頼の上に成り立った価格」だということです。
この流れで価格を決めた企業は、その後の営業活動も変わります。「なぜこの価格か」を説明できるようになるからです。
よくある失敗パターン

海外展開企業が同じ失敗を何度も繰り返しています。以下の2つのパターンが最も多いです。
失敗パターン1:最初の3ヶ月で急いで値下げする
現地での売上が思わしくない。Slack通知で日々の数値が届く。焦った経営陣は、瞬時に値下げを指示します。
短期的には売上が増えることもあります。しかし3ヶ月後、6ヶ月後に何が起きるか。その市場での自社のイメージは「安い商品」に固定されています。顧客の信頼は、価格の安さだけになっています。
その後、少しでも値上げしようとすると、顧客は競合に流れます。市場内でのポジション設計を先にしなかったため、価格変更する度に顧客が離れるようになってしまいました。
失敗パターン2:「海外は儲からない」と判断して撤退する
利益率が下がり、赤字が続く。半年から1年の赤字を見た経営陣は「海外市場には需要がない」と判断して撤退します。
実は問題は市場ではなく、その市場に合わせた構造設計をしないまま、価格を決めていたことです。構造設計なしの価格設定で、利益を作ることは最初から不可能だったのです。
海外展開での価格設計に関するよくある質問
海外展開で価格を決める際、最初に見るべき指標は何ですか?
競合の価格ではなく、その市場のユーザー層の購買力です。具体的には、該当する商品カテゴリの平均購入額がどの程度か、月当たりの購入回数はどれくらいか、という購買行動を先に調べてください。
その上で、自社が設定したポジション(最安値企業か、最高品質か、専門企業か)に対して、その市場でどの価格帯が競争優位になるかを判断します。
日本での利益率を維持したまま海外展開はできますか?
多くの場合、最初の1〜2年は難しいと考えてください。その市場での信頼構造を作る為に、日本より多くの構造費用が発生するからです。
例えば、1ページ月間300,000PVを達成した企業でも、その大半はSEOと蓄積された実績からの流入です。海外市場では、その実績もSEO資産も最初はゼロです。ゼロの状態で日本と同じ利益率を作ろうとするのは、構造的に無理があります。
重要なのは「何年で利益率を戻すか」という見通しを持つことです。構造費用を計算した上で、3年での黒字化を目指すなら、最初の1〜2年は赤字を覚悟して、構造設計に投資するべきです。
海外展開時に価格設定をやり直すタイミングはいつですか?
最初の3ヶ月は、どうしても修正が必要になります。しかし3ヶ月以降の値下げは避けるべきです。一度下げた価格を戻すのは、顧客心理的に非常に難しいからです。
最初の3ヶ月で十分に市場調査をした上で、4ヶ月目からは「その価格での信頼構造を作る」に集中してください。価格を変えるのではなく、信頼要素を増やすことで売上を作ります。
判断基準まとめ:海外展開で価格設計を優先すべき企業
以下の企業は、海外展開を始める前に必ず価格設計の見直しをしてください。
- 現地での競合価格を調べただけで、自社のポジション定義をしていない企業
- 日本での利益率を海外でもそのまま実現できると考えている企業
- 商品ページを翻訳しただけで、現地の市場調査をしていない企業
- 最初の3ヶ月で売上が思わしくなく、値下げを検討している企業
- SNSフォロワー獲得単価が5円のような低コストで集客できていたが、海外では集客コストが10倍以上になっている企業
つまり、海外展開での価格設計とは何か
つまり海外展開での価格設計とは、商品の原価や競合の価格ではなく、以下の問いへの答えから導き出されるものです。
- その市場で自社はどのようなポジションを持つのか
- そのポジションを実現するにはどのような信頼要素が必要か
- その信頼要素を整えるにはどの程度の構造費用が必要か
価格を先に決めると、市場は需要を与えず、値下げの悪循環に陥ります。
まとめ
海外展開で「売れない」という企業の多くは、市場調査なしに価格を決めています。その結果、値下げの悪循環に陥り、利益が消え、最終的には市場内でのポジションが「安い商品」に固定されてしまいます。
正しい流れは逆です。最初に「その市場で誰に、どのポジションで、何を売るのか」を定義します。その定義から必要な信頼要素と構造費用を計算します。その結果として、自動的に決まる価格が「その市場での売上を生む価格」になります。
海外展開を検討している企業は、商品の完成度や原価削減より先に、価格設計のプロセスを整えることをお勧めします。AI検索流入368%を達成した企業でも、海外市場では一から構造を作り直す必要があります。その時に必要なのは、その市場での自社の定義です。
まずは市場調査から始めてみてください
海外展開を急いでいるなら、なおさら一度立ち止まることをお勧めします。
現地での顧客層、競合のポジション、市場での信頼軸を3週間かけて調べてください。その結果から見える価格設定は、競合調査だけで決めた価格とは全く異なるはずです。
月商100万円のECサイトを2,000万円に成長させた企業
日本国内でのEC事業が安定していた企業が、海外展開を検討していました。当初の計画では、日本での利益率をそのまま適用し、最初の1年で黒字化するという目標でした。
しかし現地市場の調査を進める過程で、その市場では専門性の評価が非常に高いことに気づきました。価格を下げるのではなく、その市場での「専門企業」というポジション設計を優先しました。結果として、日本以上の利益率で事業を展開できるようになったのです。
BtoBオンラインサイトで月商100万円から1,000万円に成長させた企業
国内のBtoB事業が成功していたため、同じロジックを海外に適用しようとしていました。しかし現地調査で、その市場では企業の実績や第三者評価が購買判断の最優先項目だったことがわかりました。
価格競争ではなく、信頼設計に予算を集中させた結果、3年で国内と同等の売上構造を作ることができました。その過程で、日本国内の事業も改善され、全体の売上が向上しました。
お客様の声
東南アジア向けEC事業を展開する消費財メーカー/海外事業部長
最初の半年、売上が伸びないたびに値下げを繰り返し、気づいたときには現地での自社イメージが「安い商品を売る会社」になっていました。価格ではなく、まず市場でのポジションを定義することから始め直した結果、値下げをせずとも問い合わせが増える構造に変わりました。今は価格を上げることへの抵抗が、現地の顧客にも社内にも、以前ほどなくなっています。
欧州市場へ参入したBtoB向けソフトウェア企業/代表取締役
日本での成功体験をそのまま持ち込み、現地での信頼構造を作らないまま価格だけ設定していたことが、最大の失敗でした。構造費用を正しく見積もり、3年での黒字化という見通しを持ち直したことで、短期の数字に焦らず信頼要素の積み上げに集中できるようになりました。結果として、現地での受注単価は当初の想定より大幅に高い水準で安定しています。



