BtoB製造業が内製ECと外注ECで迷う理由と成長段階で判断すべき選択基準とは
福岡ECサイト株式会社
代表 鳥井 敏史
福岡ECサイト株式会社 代表 鳥井 敏史
ECサイト制作・AI検索対策の実務コンサルタント。15年以上にわたりECサイトの売上構造改善と集客設計を支援。売上改善・集客改善の実務支援を中心に企業のECサイト構造の再設計を行う。
専門分野
ECサイト制作 ECサイトリニューアル AI検索対策 SEO / コンテンツ設計ECサイト改善の主な実績
この記事の監修
福岡ECサイト株式会社 代表 鳥井 敏史
BtoB製造業の多くが内製ECと外注ECで迷い続ける理由
BtoB製造業がECサイトを立ち上げるとき、最初の判断で多くの企業が足踏みしています。 「自社で構築・運用すべきか、それとも外部に委託すべきか」という選択が、その後の売上構造を大きく左右するからです。
BtoB製造業の内製ECと外注ECとは、製造業が自社の営業・受注体制をデジタル化するにあたり、システム構築から日々の運用まで全て自社で行うか、制作会社やシステム会社に一部または全部委託するかの2つの事業モデルを指します。この選択は単なる「コスト」ではなく、営業体制・データ保有・競争優位性に直結する構造的な経営判断です。
実際の現場では、Slack上で「発注管理システムと連携するなら内製がいい」という意見と「運用負担を考えると外注すべき」という意見が対立し、経営判断が後回しになるケースが多いです。その結果、中途半端な体制で立ち上げたECが機能していないまま放置されるか、決裁に時間がかかり競合に先を越される企業が増えています。
なぜ内製ECと外注ECの選択で迷うのか

短期コストと長期資産のバランスが見えない。 この問題の本質は「短期コストと長期資産のバランス」が不明確なためです。多くのBtoB製造業は、取引先との関係が深く、規格発注・OEM生産・カスタマイズ対応が頻繁に発生します。 こうした複雑な商流を管理するシステムは、既製品では対応できず、カスタマイズが必須になるケースが大多数です。
その結果、以下のジレンマに陥ります。
- 内製を選ぶと初期投資が大きく、エンジニアの確保が困難
- 外注を選ぶと毎月の費用が続き、要件変更の度に追加費用が発生
- どちらにせよ、売上へのインパクトが見えにくく投資判断がぶれる
加えて、BtoB製造業の場合、顧客データ・取引履歴・見積もり履歴がECサイト上に蓄積されるため「自社で保有すべき資産か、外部に預けて良いのか」という経営判断も同時に発生します。
内製ECと外注ECは4つの判断軸で選別できる
福岡ECサイト株式会社が支援してきたBtoB製造業の事例から見えてくるのは、事業規模・システム複雑度・営業体制・データ戦略の4つで判断基準が明確に分かれるということです。感覚的に選ぶのではなく、この4軸で自社の状況を整理することが重要です。
1. 事業規模で判断する(年商と月商)
事業規模は内製化の投資対効果を決める最重要指標です。年商5億円以下では内製化による投資回収は困難。 年商5億円以下のBtoB製造業の場合、内製ECに専任エンジニアを配置することはROIの観点から困難です。 なぜなら、ECの構築・保守に年間1000万円以上の人件費がかかるのに対し、ECからの追加売上が500万円程度では赤字になるからです。
一方、年商20億円以上の企業では状況が変わります。月商が数千万円以上になると、システム管理者1名分の年間給与(400~600万円)で得られるECの最適化効果が、売上増加分で相殺できるようになるからです。実際、年商60億のWeb会社のWeb事業部教育とコンサルを通じて年商80億へ成長させた事例でも、内製化への投資が経営判断の中心にありました。
判断基準は以下の通りです。
- 年商5億円未満→外注優先(内製化の投資回収期間が5年以上)
- 年商5~20億円→ハイブリッド型(基本は外注、要件定義と施策立案は内部化)
- 年商20億円以上→内製化も検討価値あり(システム管理者1名の配置で採算可能)
2. 商品・サービスの複雑度で判断する
BtoB製造業の中でも、標準商品のみを扱う企業と、カスタマイズ対応が多い企業では、ECに必要な機能が大きく異なります。
標準商品メインの場合、既製プラットフォーム(ShopifyやMakeShop)で対応できるケースが多く、外注でも十分です。しかし、規格発注・OEM生産・見積もり・納期カスタマイズが日常的に発生する企業では、既製品では不足する機能が必ず出てきます。
実際にShopify管理画面で在庫・納期情報を顧客ごとに出し分ける設定を試したとき、標準機能では対応不可と判明するパターンが典型例です。これ、現場でよく起きる状況ですが、後から発覚するとスケジュールが大幅に遅れます。こうした場合、カスタマイズに対応できる開発会社選びが鍵になり、結果的に「外注でも十分に内製的な体制」になります。
複雑度の判断基準は以下の通りです。
- 複雑度低(商品パターン50種類以下、カスタマイズなし)→プラットフォーム型外注で対応可能
- 複雑度中(商品パターン100~1000種類、基本的なカスタマイズ必要)→要件定義まで内部で行う外注モデル
- 複雑度高(顧客ごとのカスタマイズが常態、見積もりシステム連携必須)→内製化または深いカスタマイズに対応できるパートナー選定が必須
3. 営業体制とデータ戦略で判断する
BtoB製造業の場合、営業チームが既に顧客管理システムやSFA(営業支援ツール)を使用しているケースが多いです。ここが重要な判断ポイントになります。
既存の営業ツール(例えば、SalesforceやMS Dynamics)と連携させ、顧客の購買履歴・見積もり履歴・納期要望を一元管理する必要があるなら、単なるECではなく営業支援システムの一部として機能させる必要があります。この場合、内製化または深いシステム統合に対応できるパートナーを選ぶべきです。
一方、営業とECを分離させ「B2Bポータルサイト」のようなシンプルな受注画面だけを提供する場合は、プラットフォーム型の外注でも対応可能です。
判断基準は以下の通りです。
- 営業ツール連携なし、シンプルな受注→プラットフォーム型外注で対応可能
- 既存営業ツールとの部分連携必要→ハイブリッド型(APIレベルの連携対応できる外注パートナー)
- 営業ツールと完全一体化、顧客データの一元管理必須→内製化またはフルカスタマイズ対応パートナー
4. 要件変更頻度で判断する
BtoB製造業の場合、市場環境や顧客要望の変化に応じて「◯月から新商品の見積もり機能を追加したい」「納期情報の表示方法を変えたい」といった要件変更が頻繁に発生します。
外注体制の場合、こうした要件変更の度に開発会社に連絡し、見積もりを待ち、スケジュールを調整する。 その間、営業チームは「システムが対応するまで待つ」という状況になり、スピード感が失われます。実際の現場では、このタイムラグが商機を逃す原因になることが多いです。 一方、内製化すれば、月1~2回の要件変更なら、設計チーム内で柔軟に対応できます。
月間要件変更数が3件以上の企業は、内製化または要件変更対応の高速化を謳うパートナー選定が必須です。
内製ECと外注ECの構造的な違いを理解する

福岡ECサイト株式会社では「内製化」と「外注」を単なる体制の違いではなく「構造売上」の観点から捉えています。それぞれのモデルが生み出す売上構造は異なるということです。
| 項目 | 内製EC | 外注EC |
|---|---|---|
| 初期構築コスト | 500万~2000万円(エンジニア人件費) | 200万~500万円(一括発注) |
| 月々の運用費用 | 30万~60万円(人件費中心) | 10万~30万円(保守費用) |
| 要件変更の対応速度 | 1~2週間(内部決裁のみ) | 2~4週間(外部との調整必要) |
| 顧客データ保有 | 100%自社資産(戦略的優位性あり) | 部分的(外部システムに依存) |
| カスタマイズの自由度 | 高い(制限なし) | プラットフォームの制約あり |
| スケーリング性 | 柔軟(要件に応じて拡張可能) | プラットフォーム仕様に依存 |
| 撤退の容易さ | 難しい(ノウハウが社内に散在) | 容易(契約終了で撤退可能) |
| 採算分岐点 | 年商20億円以上 | 年商5億円以上 |
「内製」や「外注」という絶対解は存在しない。 この表を見ると「内製が優れている」「外注が優れている」という単純な答えは存在しないことがわかります。ここが意外と見落とされがちですが重要です。 問題は「自社の成長段階と経営戦略に合った選択ができているか」ということです。
よくある失敗パターン:判断ミスがもたらす後悔
BtoB製造業がこの判断を誤ったときの代償は大きいです。実際の失敗事例を2つ紹介します。
失敗例1:小規模企業が内製化に踏み切った場合
年商3億円の鋼材卸売企業が「顧客との取引データを自社保有したい」という理由で、内製ECを決めました。初期投資1200万円をかけ、フリーランスエンジニア1名を外部スタッフとして確保し、Shopifyカスタマイズで対応しました。
最初の3ヶ月は順調でしたが、その後「顧客が見積もり履歴を参照できる機能を追加してほしい」「納期のリアルタイム更新ができないか」といった追加要件が続き、エンジニアの時間が圧迫されました。さらに、エンジニアとの主要な連絡者が異動になると、システムの仕様やカスタマイズの経緯が社内に残らず、新しい要件の対応が遅延。結局、年間500万円の経費をかけたECシステムからの追加売上は200万円程度に留まり、2年で外注パートナーへの切り替えを余儀なくされました。
失敗例2:複雑な商流を単純なプラットフォームで対応した場合
年商15億円の産業機械メーカーが、初期費用を抑えるため「ShopifyでB2Bポータルを立ち上げよう」と判断しました。実装後、営業から「顧客ごとに異なる見積もり条件を反映できない」「大口顧客用の特別価格テーブルが対応できない」という指摘が相次ぎました。
MakeShop移行で売上が下がる理由と成長段階で判断すべき移行タイミングの基準と同様に、プラットフォーム切り替え時の要件整理不足がもたらした結果です。結局、外注パートナーと協力してカスタマイズを重ねた結果、当初の「低コスト」の利点は失われ、気付いた時には高コストなシステムになっていました。
判断基準:自社がどのモデルに適しているか

以下の基準表を使い、自社の状況を「◯」「△」「×」で評価してください。◯が多いほど内製化の適性があり、×が多いほど外注モデルが適切です。
| 評価項目 | 内製化向き(◯) | ハイブリッド向き(△) | 外注向き(×) |
|---|---|---|---|
| 年商 | 20億円以上 | 5~20億円 | 5億円以下 |
| 商品複雑度 | 複雑(カスタマイズ常態) | 中程度(パターン100~1000) | 単純(パターン50以下) |
| 営業ツール連携 | 完全一体化必須 | 部分連携必要 | 連携不要 |
| 月間要件変更数 | 3件以上 | 1~2件 | 月1件以下 |
| エンジニア確保 | 正社員エンジニア在籍 | 外部リソース活用可能 | エンジニア層不足 |
| データ戦略の重要性 | 自社保有が経営判断 | ハイブリッド保有でOK | 外部保有で問題ない |
このテーブルで「◯」が4項目以上あれば内製化検討価値があります。「△」が3項目以上ならハイブリッド型(基本は外注、要件定義と戦略立案は内部)が最適です。「×」が4項目以上なら、プラットフォーム型の外注で正解です。
福岡ECサイト株式会社が支援した事例:年商規模別の選択判断
実際の支援案件から、判断基準がどのように機能するか3つの事例を紹介します。
事例1:年商3億円の部品メーカー(外注モデル選択)
金属加工部品を製造する企業からの相談でした。営業体制は既に確立されており「EC導入で新規顧客の自動受注化」が目標でした。月商500万円程度の売上規模から考えると、内製化への投資は明らかに過剰です。
MakeShop上での要件定義を徹底的に行い、「顧客登録時に業界・用途情報を取得→顧客に応じた商品オススメ表示」という機能をプログラムで実装しました。月商100万円→1,000万円への成長実績を持つ別事例と同様に「受け口の構造設計」に注力した結果、EC導入後6ヶ月で月商800万円の追加売上を創出。初期投資280万円は8ヶ月で回収できました。
事例2:年商12億円の産業機械メーカー(ハイブリッド型選択)
大型機械と関連部品を扱う企業でした。既存の顧客管理はSalesforce、見積もりシステムは自社開発のツールを利用していました。ここが重要な判断ポイントでした。
完全な内製化は予算面で困難でしたが「要件定義と営業連携は社内で行い、Shopify カスタマイズと API連携は外部パートナーに委託」というハイブリッド型を採用しました。営業チームが顧客の購買パターンを分析し「◯◯業界向けの商品セット」を提案、ECでもその提案を自動化する仕組みを構築。結果、取引顧客1000社の内、200社がEC経由での購買に切り替わり、営業チームは「深い提案営業」に専念できるようになりました。
事例3:年商50億円の流通企業(内製化へのシフト)
複数の製造メーカーの製品を販売する企業でした。外注パートナー経由で3年間ECを運用した後「要件変更のたびに追加費用が発生し、スピード感がない」という課題が発生。社内にシステム部門を新設し、EC専任チームを配置することを決めました。
初期投資1800万円(エンジニア採用費・システム再構築費)をかけて完全な内製化へ移行。その後、顧客データを自社システムに一元化し「購買予測AI」や「在庫最適化」などの新機能を次々と実装できるようになりました。3年間の外注費用が年間600万円だったのに対し、内製化後の投資は人件費込みで年間700万円ですが、実装できる機能と対応スピードが全く変わり、競争優位性が確立されました。
内製とハイブリッド、どちらを選んでも成功する条件
ここまでの分析で見えてくるのは「どちらのモデルが正解か」ではなく「自社の成長段階と経営戦略に合った選択ができているか」という本質です。
重要なのは以下の3点です。
- 年商規模に合った投資意思決定:小規模企業が内製化に踏み切れば高確率で失敗します。逆に大規模企業が外注に甘えて要件整理を怠れば、やはり機能不足に陥ります。
- 営業体制とのシステム連携設計:ECは営業の後付けではなく、営業戦略と一体化すべき資産です。既存営業ツールとの連携度で内製化の必要性が決まります。
- 3年後の成長予測:現在の年商ではなく、3年後の年商予測に基づいて選択すべきです。成長速度が高い企業は、早めにハイブリッド型へシフトする準備をしておくべきです。
よくある質問:BtoB製造業のECサイト構築に関するよくある質問
Q1:内製ECと外注ECを途中で切り替えることは可能ですか?
はい、可能ですが高いコストがかかります。外注から内製へのシフト時は、既存システムのデータ移行・ノウハウ移管・新たなシステム構築が同時進行するため、混乱期が発生します。先の年商50億の事例では、2ヶ月間の移行期間に顧客サービスが低下し、クレーム対応に追われました。重要なのは「最初の選択を正確にする」ことです。不確実な場合はハイブリッド型から始め、成長に応じて内製化へシフトするステップが最小リスクです。
Q2:Shopifyなどプラットフォームを使う場合、内製化のメリットは失われますか?
必ずしもそうではありません。Shopifyの管理画面上でのカスタマイズ・アプリの組み合わせ・ちょっとしたスクリプト対応などは「小さな内製化」とも言えます。問題は「本当に必要な機能がプラットフォームの制約で実装できない時」です。その時点で初めて「フルカスタマイズ対応パートナーの選定」または「スクラッチ開発への切り替え」を検討すべきです。
Q3:BtoB ECの場合、顧客データはどちらが保有すべきですか?
BtoB取引では顧客データが経営資産そのものです。購買パターン・納期要望・単価交渉履歴などは戦略的に重要な情報です。理想は「自社が100%保有」ですが、技術的に困難な場合はハイブリッド保有(顧客基本情報は自社保有、トランザクションデータはシステム側で管理)を検討してください。重要なのは「いざという時に自社がデータを取り出せるか」という出口戦略を確保しておくことです。
Q4:要件変更が頻繁に発生する場合、やはり内製化すべきですか?
月1~2件の要件変更なら外注でも対応可能です。月3件以上の要件変更が継続的に発生するなら、確実に内製化のニーズがあります。ただし「要件変更の頻度」ではなく「要件変更の質」で判断してください。ここ、迷いますよね。軽微な変更なら外注でも対応可能ですが、機能追加レベルの変更なら内製化のメリットが大きくなります。



